Pick-Up Album
"Tapestry" Carole King

   今から31年前の1971年2月10日、"Writer"に続くキャロル・キングのソロアルバム2作目として"Tapestry"(つづれおり)はリリースされました。このアルバムを知らないという人でもきっとこの中の何曲かはどっかで耳にしたことがあるでしょうね。シンガーソングライターの金字塔。ビルボードチャート15週連続1位でグラミー賞4部門受賞、ビルボードチャートに302週連続でランクインし、現在までに2300万枚以上を売り上げる超ロングセラーアルバム。ま、蘊蓄はそんなところで。ジャケットの猫がとてもいいです。


"Tapestry"(つづれおり)
  1. I Feel The Earth Move (空が落ちてくる)
  2. So Far Away (去りゆく恋人)
  3. It's Too Late (イッツ・トゥー・レイト)
  4. Home Again (恋の家路)
  5. Beautiful (ビューティフル)
  6. Way Over Yonder (幸福な人生)
  7. You've Got A Friend (君の友だち)
  8. Where You Lead (地の果てまでも)
  9. Will You Love Me Tomorrow?  
    (ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー)
  10. Smack Water Jack
    (スマック・ウォーター・ジャック)
  11. Tapestry (つづれおり)
  12. (You Make Me Feel Like) A Natural Woman
    (ナチュラル・ウーマン)
  1. Out In The Cold(アウト・イン・ザ・コールド)
  2. Smack Water Jack (Live)
    (スマック・ウォーター・ジャック《ライブ》)

    ※最後の2曲は1999年にリマスター盤が出たときに入ったおまけです。オリジナルは全12曲。

   じつはこのアルバム聴いたの、結構年いってからでした。名盤なのでそれまでも友達から勧められたりということはあったんだけどそれほど興味もなかったので気にとめていなかった。レコード屋の店先でたたき売りしてたCDの中にドアーズのファーストがあったので「買っちゃお。」と思って手に取ったら、隣にあったのがこの"Tapestry"でした。めぐりあわせ。

   リマスターCDの中ジャケに面白い写真が入ってます。レコーディング時の、トラックリストって言うのか、要は曲順。当時はLPだから12曲を6曲ずつに分けて収録してるんだけど、最初は"Natural Woman"がA-6で"Tapestry"がオーラス。で6曲目の「幸福な人生」はラス前のB-5だったみたいなんですね。ところが最終的には"Natural Woman"がラスト。あの"大団円"な感じがとても好きなので、Cazとしてはこの曲順は「スバらしい!」と言いたいな。

   前作"Writer"との大きな違いは、作曲家だったキャロルが作詞に挑戦しているということです。12曲中7曲が本人の作詞によるもので、内容は至ってシンプルですが、それだけに伝わりやすく、リアリティがあります。

  1曲目は『空が落ちてくる』ピアノでR&R!解散したベンフォールズファイブに通ずるところがある気がするなぁ。アルバムを通して流れる雰囲気がどっちかというとしっとり静かにという感じである中で、この曲が際だってR&Rっぽい。あえてそれを1曲目に持って来るというあたりが彼女のバランス感覚の良さなんでしょうね。間奏のピアノとギターのインタープレイがすごい。

  何年か前、車のコマーシャルで使われた"So Far Away"。このときはロッド・スチュアートやジョー・コッカーなんかのバージョンが使われたと思うけど、そのオリジナルがこれ。この曲に限らず『つづれおり』の中の曲はイントロがピアノだけのとってつけたように短いものが多いですね。小学校の音楽の先生が童謡の伴奏をするときの「♪ミーレード〜はい!」みたいな。相当歌メロに比重を置いているということなのかなーとも思うけど。でもメロにかなり自信がないとできないだろうなぁ、そんなことは。大サビの"One more song about movin' along the high way."というところが印象的。

  これも何年か前、五輪真弓が「二人のビッグショー」かなんかでカヴァーしてたのが"It's Too Late"。彼女のように70年代に青春時代を過ごした世代の人達にとってキャロル・キングは神なんだろうなぁ。この曲はコンガが入ってて、ギターのダニー・コーチマーが叩いてるんだけど、普通パーカッショニストならしないような独特のアプローチでやってます。素人ならではの発想が意外に好結果を生む事って、あるんだよねぇ。ギターソロもかなり個性的なフレーズだけど。歌詞は、上にも書きましたが作詞初挑戦でこれかというほど深い。しかもすごくシンプルでわかりやすい。この曲の"You look so unhappy, and I feel like a fool."というフレーズが妙に響きます。

  カーネギーホールでのライブ盤"Live At Carnegie Hall"では"Home Again"を歌う前に「こうすると拍手がもらえると思うけど、私はブルックリン(カーネギーホールのあるとこ)の出身なんです。」というMCがあります。故郷の歌。メチャメチャシンプルだけど、深い。

  ちょっとドキッとする始まり方の『ビューティフル』途中のディミニッシュの応酬にも何となく不安感を駆り立てられます。頭打ち中心のドラムはジョエル・オブライエン。"Tapestry"では彼とセッションドラマーのラス・カンケルの2人が叩いてます。

  このアルバムのレコーディングに携わった中心メンバーは"Jo Mama"というバンドの人達です。"Jo Mama"は"Writer"のところでもふれた"CITY"のチャールズ・ラーキー(b)、ダニー・コーチマー(g)と、ダニーが以前ジェームス・テイラーとやっていた"Flying Machine"というバンドのドラマーだったジョエル・オブライエンにラルフ・シュケット(kb)とアビゲイル・ヘイネス(vo)の5人。もちろんこの"Tapestry"にはジェームス・テイラーも参加してます。

  つづれおりを聴いて最初にいいなと思ったのは『幸福な人生』なんだよなぁ。『山のあなた』っていう詩があるでしょ。「山のあなたの空遠く、幸い住むと人の言う」ってやつ。(カール・ブッセ作、上田敏訳)中学の頃住んでた町に旅回りの劇団みたいなのが来て、宮沢賢治の『注文の多い料理店』とかを演ったあとこの詩の朗読をしてくれたんだけど、それが頭に残ってて、最初にこの"Way Over Yonder"(直訳すると「ずーーーっと向こうの方」という感じかな?)を聴いたとき、かぶったんだよねぇ、『山のあなた』と。『山のあなた』は「知らないもの」に対する(ちょっと無責任な?)あこがれ。いっぽう『幸福な人生』はそこに行けば幸福な人生が待っているという自分にとってかけがえのない場所という感じ?詞の中に『山』は出てこないけど、何となく「山から昇る朝日を浴びて」っていう感じがする。とても穏やかだが、強い感じ。ピアノの説得力。

You've Got A Friend
   何を隠そうこのサイト"Caz's R&R Garden"トップページのアクセスカウンター、"You've got ..... friends here."はこの曲のタイトルから頂いたものです。「友達」といえばこの曲。「自己犠牲」とでもいいましょうか。友達少ななワタクシには、とても重く、深く、響く曲でござんす(T_T。まぁいいやそんなことは。数々のカヴァーバージョンを持つことでも有名ですが、やっぱりダニー・ハサウェイのライブ盤"Live"に入っているヴァージョンが一番好きだなぁ。会場全員大合唱。鳥肌もん。ちなみに"Live At Carnegie Hall"のジェームス・テイラーとのデュエットはイマイチです。
   すごい蛇足なんですけど「またいつでも俺たちを呼んでくれ。ビンビンにキメてブッ飛んでくるぜ!」というのは忌野清志郎がライブの最後に言う言葉ですが、この曲の中にも"You just call out my name. And you know, wherever I am, I'll come running to see you again."という一説があります。おんなじような歌詞をダイアナ・ロスが"Ain't No Mountain High Enough"の中で歌ってます(If you need me, call me. No matter where you are. No matter how far.) が、ダイアナ・ロスは何となく、呼ばれても来ないだろうなぁとか思います。今忙しいのよとか言って。でもキャロル・キングはほんとに走って来そう。汗だくで。

  バラードばっかりでちょっと飽きたかなーという頃に出てくる『地の果てまでも』この邦題は、どうなんだろうという気もするが。詞の内容は前の"You've Got A Friend"と続いてる感じもしますね。

Will You Love Me Tomorrow?
  "Writer"のところでも書きましたが、もともと黒人ガールコーラスグループ「シュレルズ」のために書き下ろした曲で、彼女の作家としての出世作です。で、シュレルズがちょっとアップテンポ気味でやっているのに対してこの『つづれおり』バージョンは「ど」スローバラード。"Up On The Roof"とおんなじ方法をとってますね。シュレルズヴァージョンよりはこっちの方が好きかなー。ここにもやっぱり、ピアノの説得力。「切々と恋心」って感じですね。
  全編を通して聴かれるアコギの音がとてもいいです。これはもうギターのジェームス・テイラー、一世一代の名演、ぐらいの。すごい。あとさりげなく贅沢なことに、当代きってのシンガーソングライター3人の共演がこの曲で実現しています。キャロル・キングとジェームス・テイラー。もう1人は?じつは女声コーラスはジョニ・ミッチェルです。みんなわがままに自分流の歌い方でやってるから、合ってるかといえばちょっと微妙なんだけど、まぁそれも味?

  ビートルズに"Maxwell's Silver Hammer"という殺人鬼の歌があって、曲だけ聴いてるととっても呑気な、全然そういう風には思えない曲があるんだけど、それのキャロルキング版とも言えるのが"Smack Water Jack"。こういうブラックユーモアの曲って何となくイギリスっぽいなーと思ってしまう。マザーグースの歌っぽい。

   "My life has been a tapestry of rich and royal hue. (私の人生は豊かで気高い色のつづれおり。)"から始まるタイトルチューン。この曲だけほかの誰の手も借りずに彼女一人の演奏で録音されています。きっと自分自身のテーマソングみたいな感じで作ったんでしょうね。上にも書いたとおり、当初はこの曲がオーラスに来るはずだったようです。わざわざバラード2連発で終わらせたのは、アルバム的にはこの曲で本編終わりという感じで、つぎにヒット曲がアンコールとして控えてるという感じなんでしょうか。

   もともとはアレサ・フランクリンのために書いた(You Make Me Feel Like) A Natural Woman。アレサのプロデューサーであるジェリー・ウェクスラーの名前が作曲者としてクレジットされています。この曲もたくさんのヴァージョンがありますが、ロッド・スチュアートが"Natural Man"というタイトルでカヴァーしています。こちらはバンドっぽい音でとても懐かしい感じです。アレサバージョンは王道のサザンソウルという感じですが、ピアノアレンジのキャロル・キングバージョンはシンプルなだけに歌詞の重さがすごく伝わってきます。ウーマンリブのテーマソングだとか、曲が一人歩きしちゃって色んなイメージがつきまとってるかもしれないけど、純粋にラブソングとしてとてもいい歌じゃあないですか。

   このアルバムが大ヒットしている中、1971年6月18日にキャロル・キングはNYのカーネギーホールでコンサートを行います。ライブ盤が出てます。上に何回か出ている"Live At Carnegie Hall"がそうです。ステージ恐怖症だった彼女が、たった1人弾き語りでカーネギーホール。うーむ、泣ける話だ。

   さて、では名盤解説コーナー、この辺でおしまいにしましょうかねぇ。思い入れ先行でやってしまったので解説とはほど遠い内容になってると思いますが、読んで「ふふーん(-_-。」ぐらい思ってくれればそれでOKです。Thank you xxxxx.

あ、それと、Happy birthday, Carole ♡ ♥ .

'02年2月作成