Pick-Up Album
『風街ろまん』はっぴいえんど

  はっぴいえんどのバイオグラフィーについては、特に細かく説明しません。伝説のバンド。日本語ロックのルーツ。今なお多くのミュージシャン達に影響を与え続けているバンド。こういうのはもう音楽誌なんかでさんざん言われてることですし、ウェブ上にもはっぴいえんどを扱ったサイトは星の数ほどありますから、データ的なことなんかも含めてそのあたりは他へ譲ります。リンク集を参照して下さい。

 と言うわけでデータ的なことはざっと…。デビューアルバム『はっぴいえんど』が発売されたのが1970年8月。メンバーは細野晴臣(Vo,B,ジャケット右下)、大瀧詠一(Vo,G,ジャケット左下)、松本隆(Ds,ジャケット左上)、鈴木茂(Vo,G,ジャケット右上)の4人。3枚のオリジナルアルバムを発表し、1973年9月に解散コンサートを行っています。

 でも、少なくともこのコーナーを読むのにはそんな周辺情報は必要ありません。ただ「昔『はっぴいえんど』っていうバンドがあって、素敵な曲をたくさん残してくれました。」これで充分です。(^_^

 『風街ろまん』は、はっぴいえんどのセカンドアルバム。一言で説明するのはとても不可能ですが、実に、たおやかというか、とても心地よい世界が広がっているというような、そんな感じですね。今風の言葉を使えばこれはもう間違いなく「癒し系」。そしてまず最初に目、というか耳が行ってしまうのが、詞です。コトバが、文学作品みたいに広がるイメージ。曲によっては「季語」が含まれていたりして季節感がとっても豊かです。ほとんどの詞はドラマーの松本隆さんが書いているのですが、このあたりの季節感が彼が後に手掛ける松田聖子の一連のヒット曲につながっていくのかなんて思ったりします。



『風街ろまん』
 次にサウンド。このアルバムは8トラックのマルチトラックレコーダーで録音されています。今と比べると随分原始的な録音機材ですが、じつに丁寧に録音されていてCDとして復刻されたものを聞いてもまったく粗が目立ちません。それどころか逆にCDだとひとつ一つの音がとてもはっきりと聴こえてきて、暖かみのあるサウンドを醸しています。声のハーモニーやアコースティックギターの音が、とても心地よく聴けると思います。こういう言い方をプロに対してするのは失礼かもしれないんですが、本当に「手作り」の感じがします。「誰に影響を受けているか」あるいは「誰に影響を与えたか」というのが、音楽をちょっと知っている人なら気になるところだし突っ込みたくなるところですが、そこは敢えて、極力触れないようにします。ただ、聴こえてくるサウンドがとても心地いいです。

『抱きしめたい』は「サムーい冬!」を舞台にした、そのくせとても暖かいイメージの曲。アウフタクト(弱起)のイントロが気持ちいいです。ヴォーカルの大瀧詠一がとっても呑気そうに歌うのであんまりカッコ付けた感じはしないんですが、よく詞を読むととてもチョーシこいてるというか、入っちゃってるやつです。この主人公は。で、最後のワンフレーズ。「とても素早く飛び降りるので、君を燃やしてしまうかもしれません。」マジかいおい。「やけどするぜお嬢さん。」みたいな。(違うか)そんな事言っちゃうか。でもそういうきざっぽい台詞なのになぜか素朴な感じのするラブソングです。

『空色のくれよん』は童謡みたいなメロディーラインに結構「カワイラシい」感じの詞が乗っかった曲なんだけれども、ひょっとしたらこの主人公はチョっとクスリかなんかをやってるのかも、と取れなくもないような。。。ハワイアンっぽいスティールギターがとてもいい味出してます。和み系代表曲。

『風をあつめて』これも詞がとても個性的。違う言い方をすれば、かなりヤバいです。海の上に電車とか、都市(!)が浮かびます(笑)。このあたりのセンス、ものすごいとおもうなぁ。こんな詞を歌うバンド、はっぴいえんど以外にはちょっと思い浮かびません。しかもとても和やかに歌ってしまう。アコギのアルペジオとハモンドオルガンの音が実に心地いいんです。

はっぴいえんどにはロックバンドの顔ともいうべきカリスマヴォーカリスト、例えばストーンズのミック、ラルクで言うとHyde、みたいな人(ラルクで言うなラルクで(^_^;)がいません。その代わり3人の個性的なヴォーカルがかわるがわるリードを取ります。しかし、見た目のかっこいい人が1人もいない(!)。これがまたいいんだな。今のロックバンドではあんまりないですね。

『暗闇坂むささび変化』え、なに?最初聴いたときそんなリアクションを返してしまいそうなタイトル。何の歌?これもまたとても呑気な感じで進むんですが、「妖怪変化」の歌です。お婆ちゃんの話してくれた昔話の中のキャラクターですね。「早く寝ないと妖怪変化がおまえを食べに来るぞー。」ぐらいの。この曲の原形とでも言うべき曲がライブ盤『はっぴいえんどLive On Stage』に収録されています。タイトルは『ももんが』。かなりナメたタイトルですね(^_^。これもかなりいいです。詞のとぼけぐあいはこっちのほうがいい感じですね。どちらも昭和30〜40年代の東京下町の風景が浮かんでくるんですねぇ。俺は実際には見たことないけど。『暗闇坂…』のほうはマンドリンが入ってるんですが、これはベースの細野さんが弾いてます。アコースティックギターとの絡みがクール。

『はいからはくち』祭り太鼓から始まるこの曲はアルバムの前半のハイライト(ってコトバあんまり使わない?いま…。)となる、ドライブ感あふれる8ビートナンバー。何年か前どっかのバンドがカバーしてたけど、やはりこれは一度やってみたくなる曲じゃないでしょうか?詞は、これは深い。いや、はっぴいえんどの、特に『風街ろまん』収録の曲はどれも詞が深いんですが、これも例に漏れずというか、深い。まずタイトルですけど「はいからはくち」って言う言葉、このひらがな7文字を見て、漢字を当てはめて下さいと言われたら、どう当てます?最近まで俺も知らなかったんですけどね。それともう一つ気に入っているフレーズ。「蜜柑色したひっぴー」まだ8ビートに日本語を乗っけること自体が珍しかった時代を象徴するコトバのような気がします。おっとっと。うんちくはそこそこでやめときましょ。

『夏なんです』そうっすか(^_^。と思わずうなずくタイトル。アルバムのそこかしこに出てくるこの「〜なんです。」という文体。とても独特でいいですね。「ギンギンギラギラ」「ホーシツクツク」「モンモンモコモコ」擬音語擬態語のカタカナ。それとこれは是非歌詞カードを見て欲しい「日傘ぐるぐる、僕はたいくつ」けだるーい夏の昼下がりっていう感じがすごくいいです。全然爽やかじゃないコーラスも雰囲気があっていい。それとまたギターのことなんですが、アコースティックとエレクトリックの絡み合いがとても夏の昼下がりっぽくていいんです。あ。

『花いちもんめ』このアルバムはどれも名曲だと自信を持って言えます。では一番はと聞かれたらさんざん迷ったあげく、でもこの曲を選ぶんじゃないかな。この曲の主人公は、子供たち。空き地とかで「ナントカごっこ」をしている自分を、やっぱり思い出します。「紙芝居屋が店を畳んだ後の…」というくだり、これはまた、その昔ヤクザ映画を見て映画館から出てきた人がみんな高倉健になってたっていうのと一緒かなっていう気がするんですが。後奏のツインギターがいいっすね。

『あしたてんきになあれ』以前、浅野忠信が出ていた雑誌のコマーシャルでバックに流れていた曲です。多分耳にしたことのある人もいるでしょう。乗っけから松本ワールド炸裂!「ときどき戦闘機が落ちてくる…」戦闘機!!!どこなんだそこは???さりげなくめちゃくちゃクールなファンクナンバーであるということも書いときましょう。だからきっとそのうちどっかのDJがネタに使うだろうな。もうやってるかも。

『颱風』これは秋の歌。ブルースフィーリングかましまくりな曲調に、日本情緒たっぷりの歌詞。なんせ台風じゃなくって「颱風」ですから。簾(すだれ)とか、樋(とい)、とか出てくんですよ。こんなもん誰が考えんだろうと思ったら、実はこの曲は大瀧さんが詞を書いています。ドラムのラウドな感じがものすごくいいです。松本隆さんをドラマーとして評価する人があんまりいないようなので、念のためここでちゃんと言っときます。日本人のドラマーでリンゴ・スター(ビートルズ)に一番近い人がいるとしたら、それは間違いなく松本隆でしょうね。

『春らんまん』大正ロマンな感じの詞だなぁ。これもコーラスワークが気持ちいい曲です。でもファーストの『春よ来い』とリンクしている部分があって、結論として、やっぱり春はまだ来ないってことですね。うーむ、寂しいなぁ。え、俺?

『愛餓を』最後のおまけは、これも憎いところついてくるなぁという言葉遊び。最後までトボけ倒してますね。もちろんアビーロード(ビートルズ)の影がちょっとだけ見えますね。

これで『風街ろまん』のお話はおしまい。詞は松本隆作品であれば風待茶房に載っています。また、実際に音を聴いてみたくなったという人は music.co.jp で試聴できますよ。

ちなみに、ファーストとサードが気になる方は、こちらへ。