Pick-Up Album
"SONGS" Sugar Babe

   シュガーベイブについてはこちらに書いときました。出したレコードはアルバム1枚、シングル1枚。しかもほとんど売れなかったので速攻で(笑)廃盤になってしまいました。解散後もずーーーーーっと廃盤の状態が続いていたので1994年にオフィシャルでCD化されるまではそのサウンドは全く以って「謎」に包まれていました。(と言ったらちょっと大袈裟か?実はちょこちょこ再発されてはいたみたいですけどね。)で、その94年のCD化のときに、これはおそらくみなさんご存知だと思いますが、深夜番組に曲が使われたりとかして("SHOW"と"今日はなんだか")、20年後に晴れて大ヒット。きっとアルバム制作当時のスタッフは開いた口がふさがらなかっただろうなぁ。「おいおい、今ごろかい。」

   CDのライナーノーツに山下達郎さん本人のコメントが載っています。その中にもあるとおりシュガーベイブは上手ではないのですが、実に不思議な個性を持っているバンドです。"演奏能力の稚拙さをカバーする"ためにアレンジを工夫したというのは前述のライナーノーツの一文。他の人には真似できないような面白い音づかいがたくさんちりばめられています。そして何よりも、勢いがある。新人バンド特有の、ギラギラした感じがあります。これは今の山下達郎や大貫妙子には到底出せない輝きです。こういうのは一生に一度しか作れないんでしょうかね?

   プロデューサーは大瀧詠一と山下達郎。大瀧さんの主宰した"ナイアガラレーベル"の第1弾がこの"SONGS"です。発売元はインディーズの"エレックレコード"。この後大瀧さん本人は"Niagara Moon"というかなり風変わりなアルバムを作るのですが、それにも通ずる奇妙奇天烈さが微妙にこの"SONGS"からも感じ取れます。


『Songs』
  1. SHOW
  2. DOWN TOWN
  3. 蜃気楼の街
  4. 風の世界
  5. ためいきばかり
  6. いつも通り
  7. すてきなメロディー
  8. 今日はなんだか
  9. 雨は手のひらにいっぱい
  10. 過ぎ去りし日々"60's Dream"
  11. SUGAR
  12. SHOW(Demo)
  13. 夏の終りに(Demo)
  14. 指切り(Demo)
  15. パレード(Demo)
  16. 素敵なメロディー(Live)
  17. 愛は幻(Live)
  18. 今日はなんだか(Live)

  オリジナルのリリースは1975年4月25日。そのときは11曲入り("SUGAR"まで)でした。同時発売でDOWN TOWN(c/w いつも通り)をシングルとして切っています。

  中産階級のポップスとか、同時代のほかのアーティストに比べて主張がないとか、シュガー・ベイブとこのアルバムに対しては本当に色々な意見がありますが、まぁそう難しく考えることもないのではないかと、いつものようにCazはそう思います。だいいちほとんど売れなかったんだから当時のリスナーに与える影響なんて0に等しかった訳だし。それよりも復刻後の90年代の方が大きく影響与えてますね。ここ2〜3年で出てきたアーティストで"SONGS"をフェイバリットに挙げる人って結構いますよ。

  個人的な感想ですが、このアルバム(特にオリジナルの11曲)を通して流れる雰囲気は「雨」です。6月の梅雨の頃か、もしくは9月の秋雨のころ。でもどちらかというと日本よりも、ヨーロッパの雨という感じがするんです。(注:行ったことはない。)小さい頃に絵本で見たドイツの童話とか、そういうものに近い感じ。ジャケットのじぃさんとばぁさんのせいかな?

  おそらくたくさんの人が耳馴染みのあるであろう"SHOW"。オリジナルテイクとデモテープのテイクが入ってます。デモテープと言っても4トラックの、しかもほとんど一発録りですからスタジオライブみたいなもんですね。ところどころちょいミスしたりしてるのがかえって微笑ましくて良いです。ライブのオープニングで使ってたということなんですね。つまんなかったらしいという話もあるけど、この曲がオープニングだったら見てみたい気もする。ドラムのリズムパターンがものすごい。それだけ聴くと変拍子みたいに聞こえちゃいます。

  やっぱりこれが一番有名じゃないかなという"DOWN TOWN"。CDが出る前はEPOの歌った80'sポップなバージョンしか知らなかったから、こっちを初めて聴いたときは「な、なんじゃこのドラムの重さは?!」と思いましたが、今は慣れました(笑)。何年か前にEPOのライブを見に行ったらこのアレンジでやってた。その時のバックはセンチメンタル・シティ・ロマンス。しかしこの能天気でカラフルな詞。ラテンみたい。もともとは"グッドナイトベイビー"のキングトーンズのために書かれたというこの曲。ぜひキングトーンズバージョンを聴いてみたいというのは、ちょっと恐いもの見たさ。

  "蜃気楼の街"に限らずこのアルバムでの大貫妙子の歌声は、現在の彼女の声からすると信じられないほどか細い。こんな時代もあったのかーと思わせるほどですね。ところでこの曲を頭の中で思い浮かべているとサビのところでオフコースの「あなたのすべて」という曲のサビが割って入ってきてしまう。なぜだろうと思ったらそこのとこだけ歌メロがちょっと似てた。

  "風の世界"はコンプレッサーをかけたギターが気持ち良いですね。なんだかんだ言ってもやっぱりシュガーベイブはギターバンド。ギターサウンドが特徴あります。山下達郎のカッティングは聴いてすぐにそれとわかる独特のタイム感を持っているし、そして村松邦男のソロフレージング。これは良いです。

  "ためいきばかり"の詞の情けないこと情けないこと(;_;。なんとなく他人事とは思えません。ライナーの解説によるとソロが"エリオット・ランドールばり"だそうだけど、エリオット・ランドールって90年代になってからエイジアに入った、あのエリオット・ランドール?

  このアルバムの面白いところは、ドラムやベースはほとんどノーエコーなのに、上に乗ってる音がけっこう深いエコーがかかったりしているところ。"いつも通り"はストリングスやグロッケンなどがエコーサウンドで、それが「バンド+ゲストミュージシャン」という雰囲気を醸しているために、変に歌謡曲っぽくなってないのがいいんですね。

  "すてきなメロディー"はオリジナルテイクとライブテイクが入ってますが、これはライブでも盛り上がりそう。楽しそう。94年のCD復刻時に行われた「山下達郎 Sings Sugar Babe」のイベントでゲストに大貫妙子が出演したときのテイクが、大貫さんのベスト盤に入っているらしいのですが、まだ聴いた事がありません。ラジオで流れたのは確か聴いたはずなんだけど。これは山下&大貫+銀次(詞)の合作なんですね。しかもそれぞれが作った部分をつなぎあわせている。レノン&マッカートニーみたいですね。リズムは普通のウォーキングブルーススタイルなんですが、ギターのバッキングがすごい。達郎さんはこれをライブで弾きながらやっていたのかというカッティング。そしてそれをリードするリフも凄い。面白い。

  "SHOW"と同じく深夜番組で使われた"今日はなんだか"。ワウギターが寂しげな、不思議な感じを醸していますね。特にエンディングにさしかかるとこのワウギターは、子供の頃住んでた田舎街の、さらに町外れにあった洋館を思い出します。なぜだろう。スタジオテイクの方、"ヴォーカルの生硬さが気になる"というのは山下達郎さん本人の弁ですが、この十代っぽい詞にはかえってその方がいいんじゃないすか?

  上にも書きましたが、Caz思うにこのアルバムのトータルイメージとしてなんとなくあるのが「雨」。べつに"雨は手のひらにいっぱい"のせいじゃないんですけどね。むしろこの曲に限ってはめちゃめちゃ日本っぽい感じがする。しかも東京。"この曲がある先輩ミュージシャンに褒められてずいぶんと慰められた"と達郎さんは書いてますが、Cazはこの曲を聴くとなぜか安心します。

  ちなみに雨といえば、このアルバムには収められていない曲で"こぬか雨"というのがあります。前に達郎さんのライブを見に行ったとき演ってましたが、バックのミュージシャンがうますぎてシュガーベイブの頃の雰囲気が想像できなかった。

  アコギから始まるイントロが後の"いつか晴れた日に"に通ずるところがある"過ぎ去りし日々"60's Dream""。意外にアコギの出番が少ないこのアルバムの中にあって貴重なアコースティックチューンだと思います。弾いているのは達郎さん。ピアノとの絡みがいいですね。

  それまでの10曲のイメージを完膚なきまでに叩き潰す"SUGAR"。オリジナルのレコードレーベルには「おまけ」と書いてあります。これを前面に押し出したライブをやっていれば、客の受けはもっと良かったかも?と書いたらご本人たちは怒るでしょうか?でも当時よくジョイントで一緒になった"上田正樹とサウストゥサウス"や"めんたんぴん"のファンもきっと大騒ぎじゃない?やたらうるせー"布谷文男"さんが"スピニング・トゥ・ホールド"で有名な"ブルース・クリエイション"のヴォーカルだったと言うことを、後で知りました。おっさん、やるじゃん。

  "夏の終りに"から始まるデモテープの4曲はマスタリングがちゃんとされていないのか、あんまりいい音ではありません。ボーナストラックなので文句は言えませんが、でも特にギターの音なんかは、やっぱりいまいちです。コーラスは、、、、。これはライブでは出来んだろ。こりゃほんとにただの、おまけですね。

  "指切り"は大瀧詠一のカヴァーです。"びんぼう"、"五月雨"、"指切り"とある「四文字シリーズ」のうちの1曲。個人的には"びんぼう"が大好きなんですが。"指切り"の作詞は松本隆。もう松本ワールド炸裂。蜜柑の皮ってのがいいですね。「指切りしないか」ってのは井上陽水の"氷の世界"にもおんなじような詞がありますね。陽水の詞は内省的だって言われてますが、この曲を当時の山下達郎が歌うと、こちらも半端なく内省的ですね。

  次はシュガーベイブ時代に録音が間に合わず、ナイアガラトライアングルとして発売された"パレード"。ナイアガラバージョンもいいですが、こっちの方が好きです。理由その1、レコーディングメンバーはほとんど一緒ですが、ナイアガラバージョンはキーボードを坂本龍一が弾いてます。シュガーベイブはもちろん大貫妙子。"ホンキートンクっぽい"ことを普通のピアノでやっています。このたどたどしさが、いいです。理由その2、大サビがあるからです。あの「紙吹雪は〜」のところが気に入ってます。ニッポン放送第一スタジオの、ちゃちいエコーが、これがまたぴったり。あとやっぱり、ギターのアレンジがいいんだな。意外にR&Rな。

  大貫妙子のファーストソロアルバム"Grey Skies"に収録されることになる"愛は幻"。このライブテイクは、良いと思います。へんてこな進行もそうですが、ちょっと横っぽい8ビートに弱めの女性ヴォーカルっていうのがなんとなくミスマッチで良い。ギターソロ、カッティングと絡むとことか、激しい。そのあとの"今日はなんだか"に続いてくとこなんて、ちょっとアツいじゃないっすか。

  オーラスの"今日はなんだか"のライブテイクを聴くと、意外にもシュガーベイブはかなりロックっぽいサウンドであったということと、その後の山下達郎ソロに受け継がれるライブ重視のスタイルがあるという事がわかります。しかし彼等の客は演奏がいいと歌ったり踊ったりするのではなくって、感心してしまうんだなぁ。「ほほぉ。パチパチパチ、、。」みたいな。音楽通をファンに持ってしまうのも良し悪しか?部屋でCD聴いてるときはラスト2曲あたりでつい力入っちゃうんだけどね(^_^。

  さて、この辺で"SONGS"勝手にアルバムレビューはおしまいです。参考資料は"SONGS / Sugar Babe"(East West Japan)ライナーノーツ、『All About Niagara』(大瀧詠一著 白夜書房)、『日本ロック大百科[年表編]』(JICC出版局)、そして山下達郎さんのラジオ番組『サンデー・ソング・ブック』で'98年から'99年にかけて放送された特集『History Of Japanese Rock』でした。次のピックアップアルバムはいつになることやら(^_^;。それではまた。(^_^/~

'01年4月作成