Pick-Up Album

Carole King "Writer"

  突然であれなんですけど、『ロコモーション』って歌知ってます?「♪さあさあダンスのニューモードォー。」ってやつ。弘田美枝子だと思ってたんだけど、検索したら伊東ゆかりだった。「♪あなたが、噛んだ、、、」の伊東ゆかり。ちょっと古い?ならば、最近なんだかどんどんエロエロな路線に走ってるカイリー・ミノーグ。10年以上前の彼女のヒットもおんなじ曲だぞ。詞は日本語じゃないけどね。ロッカーな人は「グランドファンク・レイルロード」ヴァージョンの方がカッコいいぜって言うかもしれないっすね。でも最初に歌ったのは、リトルエヴァという、元々はただのベビーシッターだった人。それがなんだって?うん、今回のPick Up Album はその彼女の雇い主である、赤ん坊の母親の話だ。

なんだかワザとらしい始まり方だなぁ(笑)。

  「キャロル・キングって『つづれおり』の人でしょ?」その通り。でも彼女は'70年代にシンガーソングライターとしてメガヒットを飛ばす前に、職業作曲家としてすでにガシガシに稼ぎまくっていたんです。作家としての彼女の出世作は"Shirelles(シレルズまたはシュレルズ)"というガールグループが歌った"Will You Still Love Me Tomorrow"。この曲は彼女自身セルフカヴァーしており"Will You Love Me Tomorrow"と、ちょっとタイトルが短くなって『つづれおり』に入ってます。でもこの『シレルズ』のヴァージョンは微妙にダサいです。あとはビートルズもカヴァーした"Chains"(オリジナルはCookies)とか。

   そんな中で多分一番有名でわかりやすいのが『ロコモーション』。上にもちょっと書いたんですが、できたてのこの曲を、自宅でベビーシッターが歌ってるのを聴いたキャロル・キングが一言「あなた歌いなさいよ。」。リトルエヴァ大抜擢、だったんだそうです。作家時代の彼女の曲は他にもたくさんあるみたいですけど、この前サンデーソングブックでやった特集聴いても、ほとんど知らない曲ばかりだった。派手目なR&Rチューンが多いです。もしくはアイドルポップっぽいやつ。"Will You..."もシレルズヴァージョンはアップテンポだし。『つづれおり』のあのどこかもの悲しい雰囲気は、全くないと言えるかも。

  聞いたところによるとキャロル・キングは学生結婚して、でその旦那さんと一緒に曲を作ってたようなんですね。ていうか「あなたの書いた詞に私が曲をつけるね。」と言ったかどうかは知りませんが、そんなこんなで共同作業してる内に、アイがメバえた。みたいな。旦那の名前はジェリー・ゴフィン。ホイットニー・ヒューストンの『すべてをあなたに』とかの詞を書いてる人ですね。二人の共作はもちろん『つづれおり』にも入ってます。上記の"Will You ..."と、アレサ・フランクリンのために書いた"(You Make Me Feel Like) A Natural Woman"。作詞ジェリー・ゴフィン、作曲キャロル・キングというコンビで、上記の曲を始め、ヒットを連発して稼ぎまくったそうです。10代から。10代で職業作曲家。しかも夫婦。しかも超売れっ子。いゃー、驚いた。ちなみにレノン&マッカートニーが創作活動をするにあたってまず最初に目指したソングライターチームはこのゴフィン&キングだったというのはほんとの話。

  ところがこのコンビはやがて解消してしまいます。やっぱり早く結婚すると続かないのかねー。離婚です。離婚しても仕事は続けるのがプロだろぅ?そうも言ってられなかった。キャロル・キングは離婚後、いったん創作活動から遠ざかります。で、そのあと何を思ったか、作るだけではなく自分で歌い、レコードを作り、ステージに立つことを目指し始めるんですね。まず最初にバンドを組みます。それが "The City"。ベタな名前ですねぇー。はい、そういうわけであんまり売れませんでした。職業作曲家としては超売れっ子だった彼女にとっては、ちょっと屈辱的な失敗だったんじゃないかなぁ。それとも、あんまり気にしない人なんだろうか?で、"The City"がたった一枚だけ作ったアルバム"Now That Everything Be Said"(邦題は『夢語り』)は、職業作家時代の脳天気な作風とは一転した、ちょっと暗めな作品になってます。同時代に、やっぱり彼女とおんなじ「女性シンガーソングライターの草分け」と言われた ローラ・ニーロという人がいるんだけど、その人の作風に近い感じになっています。そしてそれこそがその後の「シンガーソングライター キャロル・キング」の方向性につながっていくのです。また、聞くところによるとキャロルは「ステージ恐怖症」だったらしいです。それで人前に出て歌うことができなかった。でも"The City"のメンバーたちに励まされて、ライブ活動を行うようになったそうです。いい話じゃないか(;_;。そうこうする内にそのバンドのベーシストと再婚しちゃうんですね。名前はチャールズ・ラーキー。『つづれおり』や、この"Writer"では彼がベース弾いてます。ちなみにギターのダニー・コーチマーも彼女のソロ作品には欠かせないプレイヤー。

  さて、"The City"を解散させたあと、キャロル・キングはいよいよソロデビューします。実は職業作家になる前の10代の頃、 一度(ちょっとアイドルっぽく)デビューしてるので、再デビューってことになるのかな?その(再?)デビューアルバムが"Writer"。「作家」ですね。まんまやん。


"Writer"
  1. SPACESHIP RACES
    (宇宙の果てまで)
  2. NO EASY WAY DOWN
    (夢いっぱいの風船に乗って)
  3. CHILD OF MINE
    (チャイルド・オヴ・マイン)
  4. GOIN' BACK
    (ゴーイン・バック)
  5. TO LOVE
    (悲しい思いをさせないで)
  6. WHAT HAVE YOU GOT TO LOSE
    (私の胸に飛び込んで)
  7. EVENTUALLY
    (イヴェンチュアリー)
  8. RASPBERRY JAM
    (ラズベリー・ジャム)
  9. CAN'T YOU BE REAL
    (夢を追っても)
  10. I CAN'T HEAR YOU NO MORE
    (遠くに行っても)
  11. SWEET SWEETHEART
    (スウィート・スウィートハート)
  12. UP ON THE ROOF
    (アップ・オン・ザ・ルーフ)

  全12曲のうち、"EVENTUALLY" と"RASPBERRY JAM" にToni Sternのクレジットがある以外はすべてゴフィン&キングの作詞作曲です。レコーディングにも、この"元旦那"はエンジニアとして参加してるみたいですね。

  彼女の曲にしてはかなりハードな "SPACESHIP RACES" から始まるこのアルバムは、Cazの印象としては「それまでの職業ライター時代から次作の "Tapestry" につながっていく橋渡し的な役割」という感じが強いです。もうちょっと言うと、『夢語り』が実験段階だとすれば、この"Writer"は試作品第1号。それをさらに昇華させた完成形が『つづれおり』というべきかな。なんかふつうの批評家みたいだな、この意見(笑)。ま、実際に音を聴いた方が早いですね。

  特におすすめなのは"Child Of Mine"というピアノのバラード。さっきも書きましたがこのときキャロルには2人めの旦那さんがいました。ところがジェリー・ゴフィンとの間にはすでに2人の子供がいたのでした。きっとその子に対して歌った歌なんじゃなかろうかねぇ。なんて考えながら聴くと泣けます。

  その次に入ってる"Going Back"というちょっと小粋なアコースティックナンバーがあるんだけど、当時西海岸でヒッピーの代表みたいにしてやってた"BYRDS"がこの曲をカヴァーしようってことになった。メンバーの1人、デイヴィッド・クロスビーが「バガやろぉ!こちとらヒッピーでやってんだい。アイドル歌謡の作曲家が書いた曲なんて誰がやるかい!」と言って大もめにもめたあげく、結局バンドを抜けちゃったんだそうな。まぁおかげでそのあとCSN&Yが出来たから良かったんだけどね。でも結局のちのキャロル・キングのアルバム("Thoroughbred")にデイヴィッド・クロスビー、ゲスト参加してやんの(へ。へゞ。でもBYRDSのヴァージョンはちゃんとバーズ色になっているのでこれはこれで面白い。12弦ギター入ってるし。一方キャロル・キングヴァージョンはダニー・コーチマーとジェームス・テイラーの2人のアコギが入ってます。超クールで痺れまくり。

  もう一曲、最後に入ってる"Up On The Roof"。これもいい曲だな。「屋根の上はこの上なく穏やかなところ。下界のいやなことに煩わされずにすむもの。」っていう現実逃避な歌なんだけど、これは元々ドリフターズ(長さんのドリフじゃなくって、ベン・E・キングとかがいた方ね。)のために書いた曲。Cazは最初、ドリフターズのほうを聴いたんだけど、第1印象は「呑気な曲だなー。」で、そんなに気に入っていたわけではありませんでした。後にライブ盤(Live At Carnegie Hall)で初めてキャロル・キングヴァージョンを耳にするのですが、しばらく同じ曲だと気づきませんでした。あまりにも雰囲気が違いすぎて。ドリフターズの方はなんだか「仕事さぼって昼寝する呑気なサラリーマン」(植木等?)みたいでカラッと陽気な感じ。いっぽうキャロル・キングヴァージョンはテンポも遅いしもうちょっとマジなイメージ。しっとりと「聴きなさい。」という感じで迫ってくる。こっちは学校に行きたくない女の子の感じ。でも改めて聴き比べてみると、どちらのヴァージョンもいいです。いやなことがあって人に会いたくないときは、屋上とかに上ってこれを聴いてみよう(^^。ていうか聴いてみたい。俺が。

  というところでキャロル・キングシリーズの第1回はこの辺で。何回まで行くかはまだ決めてません(笑)。また例によって気が向いたときに更新しますので、気長に待っててください(^_^。