V―スーパーギタリスト― |
前回書かなかったんですが、ジョースタンプのあまりにけたたましい速弾きに具合が悪くなってしまった僕は、昼休みに事務所に行って言いました。
「クラス替えたいんですけどぉ!」 そうするとジョン・サイクスみたいなお兄ちゃんが出てきて、 「学部長のラリーに言ってくれ。」 というので、ラリー先生の部屋に行って、 「ドンドンドン、すいませーん!」 とドアを叩くと、おっちゃんが出てきてこう言った。 (ラリーと思しき人は奥の方でギターの練習してた。ライブがあるらしい。) 「クラスの変更かね?明日の朝9時に下のラウンジにきてくれたまえ。」 というわけでジョー スタンプ脱出計画は翌日に持ち越しとなってしまいました。 「ぜってー替えてやる!でなきゃ金返せ!」 わりとマジなボクであった。 ―翌朝9時― 学生ラウンジ(といっても俺らがいつも使っていたような溜まり場ではない。ラウンジというよりちょっとしたパーティールームのような感じ。) アメリカ人はやっぱり時間にルーズだ。9時を15分以上まわった頃、やっと2人のおっちゃんが登場。後から思えばこの2人がバークリーのギターディパートメントで一番えらい人だった。クラスを替えたいという人は結構いて、一人一人順番に申し込む。 「あのー、ジョー スタンプって先生のスタイルの授業とってるんっすけどー、なんか合わないんで、かえてください。」 “Too metal?” 「え、まぁ……。^_^;」 “He's too metal.”(「ヤツはメタルすぎる。」) 聞きながらそこだけ日本語に直したらなんか笑えてきた。“Heavy Metal”を略すと英語でもやっぱり「メタル」なんだね。 “So you can switch to Jon Finn. He's not metal.” (「じゃあジョン フィンのクラスに変更するといい。ヤツはメタルじゃない。」) 「メタル」!なんか可笑しくなってきちゃった。^^ それを言ったおっちゃん(ちなみに学部長のラリーおじさん)の言い方も「めとー!」って感じでおっかしかったし。学生ラウンジを出て部屋に楽器を取りに戻るときも、歩きながら「メタル」って言う言葉が頭ん中こだましておかしくってしょうがない。なんか誰かが言ってた「メタルのくせに……。」とか、「メタルは男のロマンだぜ。」とかいうせりふを思い出しちゃった。万国共通の「メタル」に乾杯! 「メタルだって。ぐふふ。」笑いを噛み締めながら、持っていった自分のクラス分け表にジョースタンプに代わって新しく書き込まれた先生の名前をもう1度見てみる。“Jon Finn”それはちょうどその日の夜、往年の超絶速弾きギタリスト、ヴィニー ムーア(注)と一緒にステージに立つギタリストの名であった。「これってヴィニー ムーアと一緒にやる人だろー?やっぱメタルじゃん。マジかよおい。」 ――注:ヴィニー ムーア―― 今から約10年前、シュラプネルレーベルという、速弾きギタリスト専門のレコード屋さんがあって、もともとはイングヴェイ マルムスティーンもそこの出身だった(はずな)んだけど、イングヴェイが有名になると、雨後の竹の子のようにおんなじ様な超速弾きの人を連発しました。その一人が彼です。今は売れなくなっています。 1時間後、そのジョン先生の授業です。 「またメタルだったらどーしよー……。メタルだって。くくく。」 なーんてことを考えながら教室(例によってスタジオ。今回は広い。)に入ると昨日ジョーのクラスにいた人がけっこうたくさん移ってきてる。君たちもやっぱりあの超絶テクに耐えられなかったんだね。 「今日は夜ライブがあるからこの授業が終わったあとリハなんだ。機材をここに入れるからもうちょっと待っててくれ。」 ヤツがジョン・フィンか。なんかいっぱい高そうな機材持ってるぞ。 「これは最近買ったエフェクターなんだ。今日使うつもりなんだけど、サイコーにクールな音がするぜ。」 後ろで手伝ってるのは昨日のジョン・サイクス(に似たおにーちゃん)だな。能書きはいいから早く授業やれよー。 …………………………そして、授業………………………………………
感想は、「あ、ギターって、こう弾くんだぁ。」目からうろこ。この人みたいに音楽を大きく見ることのできる人になりたいなー。また一人、すばらしいギタリストとの出会い。夜のライブもかっちょいー。ルックスはただのおっさんなんだけど。(ちなみにヴィニー・ムーアは全然違う人になっていた。よかった。)あんまりカッコよかったんで「CD下さい。」といったら次の日の授業に持ってきてくれました。1800円(高い!)だった。そのCDはまぁまぁだったけど 若い頃(といっても彼自身まだ30代くらいだろうけど)の苦労話とかも聞かせてくれて、なんかとっても充実した授業だった。言葉は相変わらず半分くらいしかわかんないけど、ギターを弾いて見せてくれたので何とかなった。悔しいことに時折出るジョークだけは何言ってるのかわかんなかったけどね。(そこだけみんなの笑いから取り残される。;_;) 授業の話はとりあえずこのくらいにしましょう。ところで、ボストンで一番えらいバンドって何か知ってる?ボストンは、バークリーがあるからっていうのもあるんだけど、けっこう音楽の街です。ライブハウスもいっぱいあるし、お酒飲むところでも生バンドが入ってるとこがいっぱいある。当然ボストン出身のミュージシャンもいます。有名なところではジャズギタリストのパット メセニー。それからファンクメタルのエクストリーム。なんでそんな事がわかるかっていうとね、バークリーのすぐ近くにタワーレコードのボストン店があるんだけど、そこの入り口にボストンが生んだスターって言う意味で、床に 5つの星が書いてあって、その中にあったんだ。5つのうち2つははじめて聞く名前だったんだけど、残りの1つはなんだと思う?エアロスミスなんです。ボストンでは何軒か楽器屋を周ったんだけど、どこの楽器屋に行ってもエアロのでっかいポスターが貼ってあるし、さっき書いたたくさんのライブハウスの中には「ママキン」っていう店までありました。タワーレコードの中にはスティーブン・タイラーのかわいいイラスト(ドロー ザ ラインのジャケットの絵だな。)が柱に書いてあって、中は撮影禁止だったんだけど、お店の人に無理言ってそこだけ撮らせてもらいました。まだ現像に出してないけど、ちゃんと写ってたら今度見せるね。ついでに言っとくと、エアロスミスの中には2人もバークリーの出身者がいたのでした。ギターのブラッド ウィットフォードとドラムのジョーイ クレイマー。そうだったんかいな。全然知らなかったー。まさにボストンが産んだ世界のエアロスミス。さーてと、今日は幾分短いかな。このへんにしちゃおう。ほんとは日曜に出すつもりだったんですが、今週はバークリーでお世話になった人にお礼のメール(今ごろかいな)を出したりして時間がなかったんで、ちょっと遅くなっちゃいました。 じゃぁまたね。 |
つづく |